イノベーションストーリー

Innovation Story

先輩×後輩対談

イノベーション推進本部 戦略企画部
インキュベーション推進室

イノベーション推進本部では、従来、石油由来だったものを木質由来に置き換えることでカーボンニュートラルへの貢献が期待されるバイオマスプラスチックやバイオマス燃料の研究を進めています。
今回、この技術の最前線で研究開発に取り組む戦略企画部の、先輩社員のY.Nさんと後輩社員のK.Nさんのお二人にお話を聞きました。

K.N

K.N

イノベーション推進本部 戦略企画部
インキュベーション推進室

Y.N

Y.N

イノベーション推進本部 戦略企画部
インキュベーション推進室

木質由来バイオマスプラ・燃料を未来の当たり前へ。

木を新たな可能性に繋げる微生物のチカラに注目

お2人がこの研究に携わった経緯を教えてください。

Y.N Y.N
私は王子ホールディングスに入社してから、長らくCNF(セルロースナノファイバー)に関わる仕事をしていましたが、それは木材パルプを化学的・物理的に処理して、新たな付加価値を付けるという仕事でした。木材パルプに生物学を組み合せ、ものづくりに繋げる仕事は、このテーマに関わってからです。最初の感想は、「本当に木からプラスチックができるんだ!」でした。プラスチックは小さなモノマー(プラスチック等の原材料)の分子がたくさん結合したものなので、理論上、木材からでも作れるのは分かっていましたが、百聞は一見に如かずで、感動したことを覚えています。対して、K.Nくんは、生物学を応用するテーマに長く携わっています
K.N K.N
高専の頃から生物学に関わる研究をしていました。大学では、木材成分の1つであるリグニン(油分)を分解する菌の研究をし、王子に入社してからも、しばらくリグニン関連の検討をしていましたが、今はパルプに酵素や微生物(菌)を作用させ、有価物を得る研究に従事しています。トウモロコシやサトウキビといった、農産物から作る場合も、木から作る場合も、基本的には「糖」に着目してモノマーを作るわけですが、微生物の種類を変えると乳酸やエタノールなど、生成物が多様に変わるのは面白いと感じます。
Y.N Y.N
糖から乳酸を作る場合は、ヨーグルトでもおなじみの乳酸菌、同じくエタノールを作るのはお酒造りで活用される酵母菌。微生物の力は、食品分野に多く活用されているイメージがありますが、上手に扱うと、プラスチック製造にも使うことができる。微生物の能力は、本当に奥深いですね。
K.N K.N
発酵技術の研究成果として、バイオマス由来の燃料で飛行機を飛ばしたり、バイオマス由来のプラスチック製造に繋がったりと、多様な成分を作り出す微生物の奥深さだけでなく、応用用途に広がりがあることも、この研究の醍醐味だと思います。

図)「持続可能な森林経営」で得られる木材を活かした新素材開発の一環で、木質由来のポリ乳酸(バイオマスプラスチック)、エタノール(バイオマス燃料原料)の製造技術を開発。現在、量産化技術の確立と用途展開を進めている。

バイオマスプラスチックを木から生み出す意義とは

バイオマスプラスチックとは、どのようなものですか?

K.N K.N
トウモロコシやサトウキビなどのバイオマスから作られるプラスチックの総称です。原料が石油資源由来でないため、カーボンニュートラルへの貢献が期待されています。その中でも我々は、食品トレーやレジ袋等に使用される「ポリ乳酸」というバイオマスプラスチックに着目しています。ポリ乳酸は単にバイオマスプラスチックというだけでなく、コンポスト(堆肥)中で分解する生分解性という性質を持っていて、プラスチックごみ問題の解決にも貢献できます。
Y.N Y.N
よく、バイオマスプラスチック=生分解性プラスチックと混同されますが、バイオマスから作るからといって必ず生分解するということではなく、石油からでも生分解するプラスチックを作ることができます。ポリ乳酸はバイオマスと生分解性の2つの性質を併せ持つ点が強みといえます。

バイオマスプラスチックの可能性、木から作る意義について教えてください。

K.N K.N
カーボンニュートラル実現に向けて石油資源の使用を削減していく中で、プラスチックの使用も同様に削減していくのは限界があると考えています。極端な話、プラスチックを全く使わない社会は実現できるのか?と考えた時にそれは困難だと思っていて、未来の生活にバイオマスプラスチックは必要不可欠な素材になるだろうと考えています。
Y.N Y.N
プラスチックは最近、あたかも「悪者」のように扱われることがありますが、食材や薬の包装として使われているように、公衆衛生や人間の健康を保つには欠かせない存在です。だからこそバイオマスプラスチックの技術開発は欠かせない取組みだと捉えています。ただ、同じバイオマスプラスチックでも、原料にサトウキビやトウモロコシ等の農産物を使いすぎると、食糧生産と競合する恐れがあります。そこで我々は、持続可能な森林経営によって「木」を安定的に提供できる強みを活かし、食糧生産と競合しない、木質由来のバイオマスプラスチック・バイオマス燃料の技術開発を進めています。

世界が目指す脱化石燃料化に大きな役割を果たす

バイオマスプラスチック、バイオマス燃料の研究開発で難しいところ、逆に面白いところややりがいはありますか?

K.N K.N
今の社会は、モノを作る原料も、工場を稼働させる動力も、できた物を運ぶ物流も、殆どが化石燃料に依存した仕組みになっています。これを全て再生可能エネルギーやバイオマスで賄う社会にするというのは、モノづくりの前提から変えていくような活動で、上流から下流まで数多くの部分を見直していかなければなりません。そうした課題を一つひとつ潰していって、ようやく一つのバイオマス製品が世に出回るわけで、そこが難しいと感じます。
Y.N Y.N
既存の石油由来製品は、長年掛けて最適化が進められてきたものですが、木質由来バイオマス製品は、これから立ち上がろうとしているものです。また、大元の目的は、CO2をはじめとした温室効果ガスの削減ですが、CO2排出量・削減量の正確な算定方法も、まだまだ発展途上です。自分が生きているうちに、どこまで変わるだろうか、変えていけるだろうか、と思索にふけることもあります。ただ、社会の環境意識変革のキーとなる木質バイオマス製品を作る、その先頭を走って開発に取り組めていることは、大きな意義があるし、充実感もあります。開発に成功したら、自分の子供にも、「これがお父さんの仕事で作ったものだよ」と自慢ができるなと思っています。例えば、木質由来のプラスチックは、コンビニで手に取れるくらい、当たり前になる未来を目指したいです。
K.N K.N
同じく、自分の開発した技術を使った商品を手にするのは、夢の1つです。脱化石燃料の社会構築は世界中が取り組む、難易度の高い課題だと思いますが、そこに一石を投じる役割を果たせるのがバイオマス燃料、バイオマスプラスチックだと思います。なかでも我々が取り組んでいる、木質由来のものは、とても大きな可能性を持っていると思います。量産化技術もこれから作り上げていかなければなりませんが、それが我々の仕事であり使命だと思っています。

研究開発をすることだけが仕事ではない

イノベーション推進本部は、研究開発部門とは異なるのでしょうか?

Y.N Y.N
私たちの仕事は、開発品がお客様の手元に届くまでの間で上流にあたる「研究開発」だけではダメで、どんな製品に展開すればいいのか、どんなユーザーや企業がそれを使いたいか、それは何故かといった中流や下流まで考えることが大切、そんな想いを込めて、「イノベーション」という名前を付けたと聞いています。よく、「ニワトリが先か卵が先か」という表現がありますが、我々の使命は、まず卵を産んで、ニワトリの成長を見届け、さらに卵を産んでいくことだと考えています。
K.N K.N
私も、「まずは卵」だと思っています。新しい価値をもつモノをいち早く世に出し、フィードバックをもらう。そこには批判と称賛、両方があるけれど、いずれの意見も受け止めて、改善を繰り返すことで、世の中から認められるものになっていくと思います。今後、木質由来のバイオマス燃料や、バイオマスプラスチックに求められるのはまさにそこなのかな、と考えています。

バラバラだった点たちが一つに繋がる至福の瞬間

お互いのことを、どのような存在と感じていますか

Y.N Y.N
正直なところ、私は生物学を活かした研究の門外漢だったので、このテーマに移ってきた当初は戸惑いもありましたがチームの皆が支えてくれました。特に、K.Nくんは長くこの分野での研究経験があるので、初歩から応用まで、何を聞いても答えてくれました。後輩ですが、恩人です。
K.N K.N
Y.Nさんは、元々別分野の研究をしていたのに、短期間で基本を理解して、応用にも手を掛けていらっしゃるので、スーパーマン的存在ですね。方針の押しつけではなく後輩の話を聞いて、研究の方向性を見出していくところは真似をしたいですし、仕事だけでなくご家族も大切にされている方だなとも感じます。
Y.N Y.N
自分に割り当てられたテーマを、深く考えることができるのもK.Nくんの良いところです。高い壁に当たったとしても、次の一手は何をすべきできそれは何故か、の回答を自分の中に持っているので、研究テーマをマネジメントする上で、2つ、3つ、前提を飛ばして会話ができる存在。頼りになりますね。
K.N K.N
解決策が直ぐに思い浮かばない場面に直面することは日常的にあるのですが、学生の頃から同じような経験をしているので、「想定通りの結果が出ないことは、いつものこと」だと思っています。むしろ、「解釈に困る結果が出たが、それは何故だろうか」と考え続けて、実験を重ねていくと、ある時ふっと解決策に辿り着ける、その瞬間が楽しいと感じます。
Y.N Y.N
私も、過去に似たような経験をしたことがあるので、共感できますね。「そういうことか!」と感じる、その一瞬を味わいたくて、長く、辛い時間も耐えられるのだと思います。Appleの創始者であるスティーブ・ジョブズがスタンフォード大学で「Connecting the dots(点同士を繋げる)」との表現を使った講演がありましたが、研究もそれと似ていて、一つひとつの点も面白いし、大切ですが、その数を増やしていくと線や、面に発展して、段違いの感動があります。
K.N K.N
「点」の打ち方の1つとして、私の場合、専門外の人の話を聞く機会を意識的に持つようにしています。その方がふと口にした意見や感想から「なるほど、そういう考え方や見方は参考になりそう」と刺激になることも多いです。
Y.N Y.N
それが刺激になる前提として、K.Nくんは普段から頭のどこかで常に問題意識を持っているのだと思います。同じ現象を見たり、同じ言葉を聞いたりしてもスルーしてしまう人と、「あれ?」と立ち止まって捉えられる人がいる。セレンディピティ(思いも寄らない偶然がもたらす幸運の意)という言葉がありますが、あれは、単なる偶然ではなくて、考え抜いているからこそ気づけるのだと思います。

最後に、お互いに一言ずつお願いします

Y.N Y.N
普段、このような会話をすることはないので、良い機会をもらえました。これからも本テーマ「キーマン」として活躍を期待しています。よろしくお願いします。
K.N K.N
良い機会を頂きありがとうございました。研究者とマネージャーの視点を併せ持った方なので、理想のリーダー像として日々勉強させていただいています。こちらこそ、よろしくお願いします。

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